弁護士の山田雄太です。
今回も、「離婚をすると決めたら~離婚~」
で述べた、離婚の際に考えるべき問題点について、個別に述べていきます
今回は、離婚を望まない側の視点から「離婚原因」について検討しようと思います。
離婚を望まない側からすれば離婚原因がないことを主張していくことになりますが、前回も述べたように、離婚原因というのは非常に個別的な要素が強く、なかなか「こういう場合には、離婚原因が認められない」と言いにくい部分があります。
また、裁判所は、「夫婦関係が修復できないほどなのか、夫婦関係が完全に破綻しているのか」という観点で判断することが多いので、相手の離婚の意思が固い場合には、長期的には、なかなか離婚自体を避けることは難しいことが多くなります(もちろん、稀に、話し合いをしていく中で、双方が夫婦関係をやり直そうと思い直すことができることもあります)。
しかし、離婚原因と認めるのが適切でないと裁判所が考えるケースもあります。
その典型が、「有責配偶者からの離婚請求」となります。
有責配偶者とは、不貞行為をした配偶者のことをいいます。
このような、不貞行為をした配偶者(有責配偶者)からの離婚請求については、裁判所は原則として認めていません。
この、有責配偶者からの離婚請求が原則として認められない理由について、最判昭和62年9月2日は以下のように言っています。
「(民法770条1項)五号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば、自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ、相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり、ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであつて、右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでない・・・」
つまり、不貞行為等により、自分で離婚の原因を作っておきながら、相手が離婚を望んでいないにもかかわらず、その意思を無視して無理やり離婚に持ち込むようなことは許されてはならない、ということを言っています。
一番イメージされるケースは、不貞をした側が、その不貞の相手と結婚したいがために、現在婚姻関係にある配偶者に対して離婚をしたいと言う、といったところでしょうか。
このような動きは、原則的には裁判所は認めていないと言うことになります。
一方で、最判昭和62年9月2日は、次のようなことも言っています。
「有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。」
つまり、
①「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間」に及んでいること
②「その間に未成熟の子が存在しない」こと
③「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない」こと
の三つの要件が満たされれば、有責配偶者からの離婚請求であっても、「離婚事由」の有無を検討してもよく、その検討の結果、「離婚事由」があれば、離婚を認めてもよい、と言っていると思われます。
それぞれの要件について若干補足をすると、
①「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間」かどうかは、その夫婦それぞれの個別的な事情がかなり影響しますし、また、離婚後の相手方配偶者の生活保障がどれだけ担保されているか、等も影響すると思われます。7年半の別居で離婚が認められた事案もありますし、約8年の別居でも離婚が認められていないケースもありますので、これは、個別的な要素がかなりあるものと思われます。
②「未成熟の子」かどうかは、およそ、「高校を卒業する年齢」と裁判所は考えているように思われます。ただし、この年齢も画一的なものではなく、個々の夫婦により判断が変わり得ると思われます。
③「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない」こと、として、特段の事情について裁判所は例示列挙をしています。
しかし、裁判所は、おそらく、「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる」かどうか、を重視して判断をしているものと思われます(もちろん、他にも「離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえる」場合は色々とあり得るところでしょう)。
この要素も、かなり個別的な事情が出てくるところですので、裁判においては、離婚を望む側、離婚を望まない側の双方が具体的な事情を示して主張をしていくことになると思われます。
次回は、「離婚後の生活設計」について述べていきます。
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