「証拠」とは(1)~弁護士の視点から~

 

弁護士の山田雄太です。

 

「証拠」と聞いてどのようなことをイメージされるでしょうか?

裁判の行方を決める大事なものというイメージは持っていただけると思います。

でも、実は、その大事な「証拠」を手元に残せていない(そもそも作っていない)依頼者の方は、案外多いのです。以下に、仮想事例をお書きします。

Aさんは、お金に困っていた取引相手の代表Bさんに頼まれて、300万円を1年間の期限で貸しました(利息等の議論は省きます)。しかし、期限を超えてもBさんが返すそぶりもなく、むしろお金など借りていないと言い始めました。AさんはBさんの態度に腹を立て、裁判(訴訟提起)をしたいと弁護士に相談に来ました。

さて、弁護士がAさんに、Bさんに300万円を貸したという証拠は何かありますか?と尋ねます。

ここで、Aさんが、Bさんの署名押印(偽造でなく真正なものとします)がある「借用書」(私はAさんに〇年〇月〇日に300万円をお借りしました。一年後である〇年〇月〇日には必ずお返しいたします。)を持っていれば、裁判所はAさんの主張をかなりの可能性で認めてくれると思われます。

しかし、「借用書」等がない場合、Bさんが裁判で、「Aさんからお金など借りてない」などと主張すると、どうやってAさんがBさんに300万円を貸したことを立証(証明)するのか、別の手段を考えなくてはいけません。

ここで、AさんがBさんにお金を貸す際、口座振込をしていれば、通帳の写しの提出で、「AさんからBさんに300万円が振り込まれた」と立証できますから、かなり、貸したことが推認できます(Bさんは、「その300万円の振込はAさんに商品を売った際の代金だ」等、借りたという以外の何らかのお金の動きを説明しなければ、裁判所はAさんがお金を貸したのだろうという方向に考えます)。

でも、口座振込もせず、手渡しだったらどうでしょう。手渡しの場合、お金の動きをなかなか説明しにくいですが、仮に、300万円をAさんが自己の口座から引出しをしてBさんに手渡しをしていた場合には、「貸したと主張する日の前日に300万円を引き出した」という事実で、なんとかその引き出した300万円はBさんに貸すための資金だという方向で主張することになるでしょうか。でも、やや、「貸した」という事実からは遠くなりそうです。

これが、「タンス預金からBさんに300万円を渡したんだ」という主張だとしたらどうでしょうか。お金の動きが客観的になかなか見えません。最後は、Aさんの証言によるしかないかもしれません。こうなると、立証はかなり困難になります。

以上のように、「借用書」が手元にあれば、容易に立証できたはずが、客観証拠が少なくなるにつれてどんどん立証が困難になっていくことになるのです。

これは、「契約書」等も然りです。

勿論、「証拠」が少ないからといって戦えないわけではありません。弁護士としては、ある資料を最大限につかってどのように立証ができるか、どのように攻撃防御をするかを必死に考えます。そして、「証拠」が少なくても、裁判官を説得できたり、ある程度有利な和解に持ち込めることもあります。

でも、やはり強い証拠があるに越したことはありません。今後もめるかもしれないと少しでも思う時には、必ず紙に証拠として残しておいていただければと思います。

 

※ あわせて読みたい記事

その①

「証拠」とは(2)~弁護士の視点から~

その②

「証拠」とは(3)~弁護士の視点から~

 

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