弁護士の山田雄太です。
前回(「証拠」とは(2))の続きです。
前回の仮想事例を要約すると以下の通りでした。
Bさんは、Aさんから300万円を1年の期限で借りたところ、借りてから2年後に、Aさんから貸金返還請求訴訟を提起されました。
Bさんから相談を受けた弁護士が話を行くと、Bさんは以下のような説明をしました。
「①300万円のうち200万円は期限内にすでに弁済した。②残りの100万円は、Aさんが私の窮状を見かねて免除してくれた。」
①の弁済の立証は前回検討しましたので、今回は、②の免除の立証を検討することにします。
さて、免除(民法519条)というのはどういう場面にあり得るのでしょうか。
債権者(今回でいえばお金を貸しているAさん)にとって、免除というのは、実質的に自分の債権を放棄する(100万円を捨てる)のと同じですから、心理的には容易にできることではありません。
裁判所も、「人が、理由なく自己の債権を放棄する(免除をする)ことは考えにくい」と基本的には考えていると思われます。
そうすると、裁判において、Aさんが「免除なんかしていない。」と言っているとき、免除を主張するBさんとしては、「紙(メール、FAX等含む)はないが、口頭で免除をしてもらったんだ。」と言ったとしても、なかなか裁判所を説得することは難しいと思われます。
もちろん、紙がなかったとしても、Aさんが「免除してあげるよ。」と言ったことを聞いていた人が周りにいれば、証言をお願いできる余地がないわけではありません。ただ、そのAさんの発言を聞いていた人がAさんに近い立場の人であれば、協力を得るのは難しいでしょう。
また、紙も、第三者の証言も難しい場合であっても、Bさんのその時の窮状を具体的に説明したり、従前のAさんとBさんの人間関係を説明したりすることで、Aさんが免除をする動機があったんだという攻め方もあり得るかもしれません。でも、裁判所の説得には、かなりの事実の積み重ねが必要と思われます。
そうすると、免除を証する紙(メール、FAX等含む)での立証がやはり重要な要素を占めることになります。
しかし、人が自己の債権を放棄する(免除をする)際、多くの場合、口頭で言うことが多く、紙等に書いてわざわざ相手に渡したりすることはあまりないでしょう。
場合によっては、お酒の席で言われるかもしれません。そのような時に、あえて、「じゃあ、紙に書いていただけますか?」などと言うこともなかなか難しいですし、そのようなことを言ったら、怒りを買って、やっぱりやめるなどと言われるかもしれません。
免除というのは債務者にとっては本当にありがたいことですが、証拠の作り方もなかなか難しいところです。
正解は簡単には思いつかないところですが、後日、免除していただいたことに感謝の意を伝えるメールを送り、返信をもらう等、工夫が必要と思われます。
将来のことを考えて、証拠を残しておくということは非常に重要ですが、証拠の内容によっては、どのように残すかについて、慎重に考える必要もあるでしょう。
※ あわせて読みたい記事
その①
その②
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