「証拠」とは(2)~弁護士の視点から~

 

弁護士の山田雄太です。

 

前回の「証拠」とは(1)の続きです。

前回の仮想事例ではAさんからの視点での立証を考えてみました。今回は、Bさん側のストーリーから考えてみたいと思います。

Bさんは会社経営者ですが、不況により取引先への支払いに窮していました。そんな中で、貸金業を営んでいるAさんに、1年間の期限で300万円を借りました(利息の議論は割愛します)。BさんがAさんに300万円を借りてから2年後、AさんがBさんに対して300万円の貸金返還請求訴訟を提起してきました。

Bさんが弁護士に相談に行った際、Bさんは、以下のような説明をしました。

「①300万円のうち、200万円については、期限内に弁済している。②残りの100万円については、Aさんが私の窮状を見かねて免除してくれた。」

Bさんから相談を受けた弁護士としては、①、②それぞれについて立証が可能かどうか検討するため、Bさんにどのような証拠があることを聞いていくことになります。

①の弁済についての証拠としてはどのようなものが考えられるでしょうか。

まず、BさんがAさんから200万円の「領収証」を受け取っていて、これを裁判所に証拠として提出するということが考えられます。

しかし、Bさんが裁判において提出した領収証に、Aさんの署名押印等が一切なく、Aさんが、「200万円の弁済はない。Bさんが証拠として提出した領収証は私が作ったものではなく、偽造だ。」と言ってきたらどうでしょうか。

残念ながら、Bさんが提出した「領収証」にAさんの署名押印があった場合に比べて、裁判官の心証(裁判官が考える事件の方向性)に与える影響は小さいと言わざるを得ません。裁判官は、色々な可能性を考えるので、Aさんの署名のない「領収証」は、Aさんの関与なくともBさん一人で作れてしまう(Bさんが一人で作った可能性を排除できない)と思ってしまうのです。

その意味では、BさんがAさんから領収証をもらう際には、Aさんの署名押印を絶対にもらわなければなりません。

さらに言うと、Aさんに目の前で署名、押印をしてもらうのがベストです。もし、目の前で署名をしてくれず(かつ、押印はそもそもしてくれず)、Aさんが別の人に自分の名前を書かせた領収証をBさんに渡したうえ、裁判でこの署名は私のものではないと言った時に(筆跡鑑定の結果Aさんの署名ではないと判明したとします)、やはり、裁判所はこの領収証はAさんが作ったものではない可能性があると判断してしまうリスクが十分にあるからです(Aさんが本当にこんなことをするかどうかはあまり考えないでください…仮想事例なので笑)。

以上のように、「証拠」としての意味合いを考えると、領収証をどのようにもらうかも非常に重要になるといえます。

また、そもそも領収証が存在しないため(貰っていないorなくしてしまった)、証拠として提出できないときは、前回(「証拠」とは(1))と同じように、Bさんが、口座振込により支払っているか、現金で支払っているか(その際に口座から引き出して払っているか、お金の動きを示せないか)等により、立証の手段や困難さが変わるといえます。

 

本当は、②もこの回に書こうと思ったのですが…長くなってしまったので、②の免除の立証方法については、次回に検討させていただきたいと思います。

 

※ あわせて読みたい記事

その①

「証拠」とは(1)~弁護士の視点から~

その②

「証拠」とは(3)~弁護士の視点から~

 

山田法律事務所  弁護士  山田 雄太

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