弁護士の山田雄太です。
訴えが提起されて、裁判が進行していく間に、裁判所は必ず原告被告双方に「和解(話し合い)の可能性はないか?」と聞いてきます。
もちろん、その話し合いの中で、双方の合意に到れば、和解が成立しますが、話し合いが決裂し、和解成立の余地がなくなると、裁判官は判決を書くことになります。
裁判官が判決でどのような方法で判断をするかというのは、必ずしも唯一の考え方があるわけではなく、また、事案によっても判断の仕方は異なるところですが、裁判官は、「動かしがたい事実」を認定したうえで、その事実を前提として、全体としての事実認定をするようです。
では、「動かしがたい事実」に基づく事実認定とはどのようなものでしょうか。
基本的には、裁判官は、信用できる物的証拠(俗にいう紙による証拠)を基に、人的証拠(証人尋問)で出てきた事情を補充して事実認定をしているように思われます。
やはり、裁判官の事実認定の話をするにあたっては、証拠の議論を避けては通れないので、
具体例について、「証拠」とは(1)
で扱った貸金返還請求訴訟において、AさんがBさんに300万円を貸したことを立証する証拠がいくつかあった場合、裁判官がどのように「動かしがたい事実」を認定するかを検討したいと思います。
Aさんが、Bさんの署名押印(偽造でなく真正なものとします)がある「借用書」(私はAさんに〇年〇月〇日に300万円をお借りしました。一年後である〇年〇月〇日には必ずお返しいたします。)を証拠として提出した場合、裁判官が認定する「動かしがたい事実」はどうなるでしょうか。
おそらく、「Bさんは、自分の意思で、『Aさんから300万円を借りており、必ず返す』との文言の入った借用書に自らの署名押印をした。」との事実が「動かしがたい事実」になると思います。
そして、Bさんが、なぜ自分の意思で300万円の借用書に署名押印をしたのかといえば、それは、まさに「BさんがAさんから300万円を借りた」からであろうと裁判所は判断することになるでしょう。
そうすると、裁判所は、「Bさんは、自分の意思で、『Aさんから300万円を借りており、必ず返す』との文言の入った借用書に自らの署名押印をした。」との「動かしがたい事実」の認定によって、「BさんがAさんから300万円を借りた」と強く推認することになります。
そのため、借用書の証拠は裁判所にとってはかなり大きな事実認定の基礎になると思われます。
AさんからBさんへの300万円の口座振込の証拠(通帳の写し)が出てきたらどうでしょか。
「AさんがBさんに口座振込により300万円を支払った。」という事実が「動かしがたい事実」になるでしょうか。
この場合は、裁判所は、なぜAさんはBさんに300万円を支払ったのか、と考えます。
300万円を支払った理由というのは一般的には色々とあり得るところですが(商品の代金、借りたお金の返済等)、貸したという以外の事情が出てこないのであれば、裁判所は、AさんからBさんへの300万円のお金の動きは、AさんがBさんへお金を貸した際のものなのではないかと考えると思われます。
この場合、Bさんとしては、Aさんからの300万円のお金の動き自体は否定し難いですから、「借りた」以外の理由で300万円のお金の動きがあった(商品の代金だった等)と説明しなければならないでしょう。
このBさんの説明がうまくいかなければ、裁判所はAさんがBさんにお金を貸したのだろうという方向に考えると思われます。
以上のような例は、わかりやすい「動かしがたい事実」の認定の例ですが、事案が複雑であれば裁判所は、背景事情も含めて「動かしがたい事実」を複数認定したうえで、最終的な結論を出すことになります。
そのため、使える客観証拠は多ければ多いほど、裁判所はより確実に主張する事実の認定をしてくれることになるでしょう。
重複になってしまいましたが、やはり、物的(紙の)証拠は重要だということになります。
もちろん、上記の話は人証(証人尋問)の重要性を否定するものではありません。人証は事実認定にあたっては、やはり大きく関わるものであるのは間違いないでしょう(証人尋問については別途検討します)。
雑駁になってしまいましたが、裁判所の事実認定における考え方を簡単に紹介させていただきました。次回は、裁判前(外)の交渉について検討したいと思います。
※ あわせて読みたい記事
その①
その②
その③
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