離婚後の生活設計について~離婚~

 

弁護士の山田雄太です。

 

今回も、「離婚をすると決めたら~離婚~」

離婚をすると決めたら(総論)~離婚~

で述べた、離婚の際に考えるべき問題点について、個別に述べていきます

今回は、離婚後の生活設計について検討しようと思います。

 

 

離婚後に自分がどのように生活していくのか、ということは非常に重要になります。

離婚は、もちろんある意味ではゴールですが、新たな生活のスタートでもあります。

離婚することだけを目標に頑張り、いざ、離婚ができたとしても、その後の生活が困窮するようなことがあってはなりません。

そのためにも、離婚後の生活設計を具体的に考えておくということは非常に重要になります。

より具体的に言えば、

・収入の途はあるのか

・十分な収入が期待できないとして、貯蓄等で生きていくことは可能か

・貯蓄もあまりないとすれば、ご自身の親(等)の援助を期待することはできるのか

・将来的には親の援助に頼らずとも自立することが可能か

等になります。

 

例えば、子育て世代の離婚を想定しますが、離婚により、子供の親権を確保できたとします。

子供の親権を確保できた場合には、当然養育費を請求できることになります。

しかし、養育費というのは、一定の算定表があり、基本的には、その算定表の幅の中での額しか期待できないというのが現状です(もちろん、交渉により、別途の合意があれば、それ以上の額をもらえることもありますが)。

そして、その算定表上の数字というのも、子供の養育に十分かといえば、決してそんなこともありません。

例えば、養育費を払う側の年収が450万円で、受け取る側の年収が300万円で(両者とも会社勤めとします)、0歳から14歳までの子供が1人いた場合、算定表上の数字は月額2万~4万円となっています。

別の例で、養育費を払う側の年収が600万円で、受け取る側の年収が200万円(両者とも会社勤めとします)、0歳から14歳までの子供が2人いた場合でも、算定表上の数字は月額6万円~8万円となっています。

 

このように、算定表上の養育費の額というのは、決して十分な額ではないのです。

そうだとすれば、限られた養育費だけに頼るのではなく、生活をしていく手段を考える必要があります。

・現在の仕事のステップアップはあり得るのか

・非正規社員からの正社員登用はありうるのか

・公的な補助(児童手当等)はどの程度もらえるのか

等を事前に調べておく必要もあるでしょう。

もちろん、現実として、自分の力だけで子供を育てるというのは限界があることもありますから、その場合には、ご自身の親の力を借りるというのは十分あり得るところです。

その場合には、離婚成立前に、やはり、ご自身の親とも十分に相談をする必要もあるでしょう。

 

以上のように、離婚というのは人生においては重要な決断となりますから、離婚成立前に、離婚後の生活がスムーズに送れるよう、十分なシミュレーションをし、周りの援助をしてくれる方との相談等を十分に行うことは非常に重要なことだといえます。

次回は、親権について述べていきます。

 

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離婚をすると決めたら(総論)~離婚~

 

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離婚原因(離婚を望まない立場から)~離婚~

 

弁護士の山田雄太です。

 

今回も、「離婚をすると決めたら~離婚~」

離婚をすると決めたら(総論)~離婚~

で述べた、離婚の際に考えるべき問題点について、個別に述べていきます

今回は、離婚を望まない側の視点から「離婚原因」について検討しようと思います。

 

離婚を望まない側からすれば離婚原因がないことを主張していくことになりますが、前回も述べたように、離婚原因というのは非常に個別的な要素が強く、なかなか「こういう場合には、離婚原因が認められない」と言いにくい部分があります。

また、裁判所は、「夫婦関係が修復できないほどなのか、夫婦関係が完全に破綻しているのか」という観点で判断することが多いので、相手の離婚の意思が固い場合には、長期的には、なかなか離婚自体を避けることは難しいことが多くなります(もちろん、稀に、話し合いをしていく中で、双方が夫婦関係をやり直そうと思い直すことができることもあります)。

 

しかし、離婚原因と認めるのが適切でないと裁判所が考えるケースもあります。

その典型が、「有責配偶者からの離婚請求」となります。

有責配偶者とは、不貞行為をした配偶者のことをいいます。

このような、不貞行為をした配偶者(有責配偶者)からの離婚請求については、裁判所は原則として認めていません。

この、有責配偶者からの離婚請求が原則として認められない理由について、最判昭和62年9月2日は以下のように言っています。

「(民法770条1項)五号所定の事由があるときは当該離婚請求が常に許容されるべきものとすれば、自らその原因となるべき事実を作出した者がそれを自己に有利に利用することを裁判所に承認させ、相手方配偶者の離婚についての意思を全く封ずることとなり、ついには裁判離婚制度を否定するような結果をも招来しかねないのであつて、右のような結果をもたらす離婚請求が許容されるべきでない・・・」

つまり、不貞行為等により、自分で離婚の原因を作っておきながら、相手が離婚を望んでいないにもかかわらず、その意思を無視して無理やり離婚に持ち込むようなことは許されてはならない、ということを言っています。

一番イメージされるケースは、不貞をした側が、その不貞の相手と結婚したいがために、現在婚姻関係にある配偶者に対して離婚をしたいと言う、といったところでしょうか。

このような動きは、原則的には裁判所は認めていないと言うことになります。

 

一方で、最判昭和62年9月2日は、次のようなことも言っています。

「有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。」

つまり、

①「夫婦の別居両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間」に及んでいること

②「その間に未成熟の子が存在しない」こと

③「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない」こと

の三つの要件が満たされれば、有責配偶者からの離婚請求であっても、「離婚事由」の有無を検討してもよく、その検討の結果、「離婚事由」があれば、離婚を認めてもよい、と言っていると思われます。

 

それぞれの要件について若干補足をすると、

①「夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間」かどうかは、その夫婦それぞれの個別的な事情がかなり影響しますし、また、離婚後の相手方配偶者の生活保障がどれだけ担保されているか、等も影響すると思われます。7年半の別居で離婚が認められた事案もありますし、約8年の別居でも離婚が認められていないケースもありますので、これは、個別的な要素がかなりあるものと思われます。

②「未成熟の子」かどうかは、およそ、「高校を卒業する年齢」と裁判所は考えているように思われます。ただし、この年齢も画一的なものではなく、個々の夫婦により判断が変わり得ると思われます。

③「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない」こと、として、特段の事情について裁判所は例示列挙をしています。

しかし、裁判所は、おそらく、「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる」かどうか、を重視して判断をしているものと思われます(もちろん、他にも「離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえる」場合は色々とあり得るところでしょう)。

この要素も、かなり個別的な事情が出てくるところですので、裁判においては、離婚を望む側、離婚を望まない側の双方が具体的な事情を示して主張をしていくことになると思われます。

 

次回は、「離婚後の生活設計」について述べていきます。

 

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離婚原因(離婚を望む立場から)~離婚~

 

弁護士の山田雄太です。

 

「離婚をすると決めたら~離婚~」

離婚をすると決めたら(総論)~離婚~

で述べた、離婚の際に考えるべき問題点について、個別に述べていきます。

今回は、離婚を望む側の視点から「離婚原因」について検討しようと思います。

 

前回と重複しますが、離婚をするためには、離婚原因(民法770条1項)が必要です。

協議(合意)によって離婚をする場合には、双方の合意があればそれで十分ですが、自分の相手が離婚を望まなかった場合(離婚に反対した場合)には、離婚原因が認められないと、離婚をすることはできません。

離婚原因(770条1項各号)とは以下の通りです。

①配偶者に不貞な行為があったとき(1号)

②配偶者から悪意で遺棄されたとき(2号)

③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(3号)

④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(4号)

⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)

 

基礎となっている民法の制定が古いこともあり、特に、2号から4号まではなかなか想定されるとことではなく、

性格の不一致や、あるいは最近問題となっているDV(ドメスティックバイオレンス)は、5号の「その他」の部分に当てはめて考えることが多いように思われます。

 

では、具体的に「離婚原因」にあたる事由というのはどのようなものでしょうか。

1  暴力・虐待(DV)

暴力・虐待について、民法上は離婚原因にあたるとの明記はありません。

しかし、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として、離婚原因にあたることについては、争いがないといえるでしょう。

しかし、立証が容易ではないので、暴力を受けたら、すぐに病院に行くとか、証拠をつくる努力をする必要があります。

 

2 不貞行為

不貞行為は、770条1項1号に明文があるように、相手方の不貞行為は当然に離婚原因にあたるといえます。

しかし、これも相手が不貞をしていたと言えるための証拠をしっかり確保する必要があるでしょう。

LINEでの不貞相手とのやり取りを写真に残しておくとか、ツーショットの写真がないかとか、SUICA、PASMOの履歴を取るとか、最後はホテルに入るところの写真を取るとか(これは専門家に依頼する必要がありますが。)、

できることは、何でもやっておくべきだと思います。

 

3 暴言

暴言も、言葉の暴力として、広い意味でのDV(ドメスティックバイオレンス)にあたるようになりました。もちろん、程度によると思いますが、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として、離婚原因にあたるといえます。

これも同様に証拠が必要です。

暴言を日常的に吐かれているのであれば、必ず録音を取っておきましょう。

 

4 性格の不一致

これは、かなり夫婦ごとに個別性が強い問題であり、なかなかこのような事情であれば、離婚原因にあたるとは言いにくい問題です。

むしろ、裁判所としては、基本的には離婚原因を認めるには消極で、「性格の不一致にとどまる」という表現を使って、離婚原因を認めない方向の理由付けに使うことも、ままあります。

基本的には、別居期間がどの程度あるのかということも含めて、総合的に考えることになるでしょうか。

とはいえ、裁判所としては、双方が努力をしても、夫婦関係が修復できないほどなのか、夫婦関係が完全に破綻しているのか、という観点で離婚原因の有無を判断することになると思われます。

離婚を主張する側としては、夫婦関係が修復不可能であると強く主張していくことになると思われます。

 

5 配偶者の浪費

配偶者が借金をしているというだけでは、離婚原因にはなりません。

しかし、返済の見通しなく借金をしたことにより、家庭生活が経済的に破綻し、夫婦間での言い争いが続き、夫婦関係が壊れていけば、やはり、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)として、裁判所も離婚原因にあたると判断するようになるでしょう。

 

6 有責配偶者からの離婚請求

離婚の請求をしている側が、不貞行為をしていると、

そのような不貞行為をしている者(有責配偶者といいます)からの、離婚請求となり、その請求は原則として認められなくなります(離婚原因とは認められなくなります)。

この問題については、最高裁判所が一つ重要な判断をしている(最判昭和62年9月2日)ので、次の回で検討したいと思います。

 

離婚原因となる事情というのは幅広くありうるところですが、最終的には、「夫婦関係が修復できないほどなのか、夫婦関係が完全に破綻しているのか」という観点が重要になると思われます。

個別事情が多い部分でもありますので、夫婦間でどのようなことがあったのか、詳細に伺う必要があるともいえるでしょう。

弁護士に相談にいらっしゃるときは、どのような事情があったのか、事前に時系列に沿って整理してくださると、弁護士としても、スムーズな対応が可能になると思われます。

 

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離婚をすると決めたら(総論)~離婚~

 

弁護士の山田雄太です。

 

離婚をする、というのはその方の人生にとって大きな決断になります。離婚後の生活も、従前のものと比べて、良い意味でも、悪い意味でも大きく変わることになります。

そのため、離婚の話を進める前に、離婚をする際にはどのようなことが問題となるのかを理解したうえで、その準備をする必要があります。

今回は、問題になる大まかな項目について説明させていただきます。

 

1 離婚原因

本当に離婚をするためには、離婚原因(民法770条1項)が必要です。

もちろん、協議(合意)によって離婚をする場合には、双方の合意があればそれで十分ですが、自分の相手が離婚を望まなかった場合(離婚に反対した場合)には、離婚原因が認められないと、離婚をすることはできません。

離婚原因(770条1項各号)とは以下の通りです。

①配偶者に不貞な行為があったとき(1号)

②配偶者から悪意で遺棄されたとき(2号)

③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(3号)

④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(4号)

⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき(5号)

 

基礎となっている民法の制定が古いこともあり、特に、2号から4号まではなかなか想定されるとことではなく、性格の不一致やあるいは最近問題となっているDV(ドメスティックバイオレンス)は、5号の「その他」の部分に当てはめて考えることが多いように思われます。

少なくとも、相手が離婚に抵抗を示している場合には、離婚原因があるかどうかは冷静に検討していただければと思います。

 

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離婚したい!でも離婚協議は慎重に!~離婚~

 

2 離婚後の生活設計

離婚後に自分がどのように生活していくのか、というのは非常に重要なテーマです。離婚はしたが、困窮をして生活が成り立たないというのは、せっかく離婚ができたとしても望ましい結果を得られたとはいえません。

そのため、離婚後の生活については十分にシミュレーションをする必要があります。特に、子供を引き取り養育費をもらう側ですが、離婚をしても、十分に生活できるだけの収入を得られるか、ということは、具体的に計算をしておく必要があるといえます。

 

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離婚後の生活設計について~離婚~

 

3 親権

日本の民法の仕組みでは、親権については、夫か妻かを定めなければ離婚することができません。

これも合意により親権を定めるのであれば問題は生じませんが、裁判所を通じて親権を争うことになる(親権を双方とも望む)と、親権を得るために、従前の子供の監護の実績や養育環境が整備されていること等を裁判所にアピールして、自分に親権が認められるのがふさわしいと主張することになります。

当然、子供の意思も重要になりますから、子供とは良好な関係を形成していることが望ましいといえます。

 

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4 面会交流

裁判所を通じた手続きの中で、妻か夫のどちらかに親権が決まった場合でも、以後、親権を有さない側は、子供と会いたいという気持ちになることは自然なことであり、また、子供の生育にとっても、どちらの親とも会える状況にあると言うのは望ましい面も多くあります(もちろんケースにより様々です)。

そのため、裁判所では、面会交流という制度が設けられています。

養育できていない側の親が子供とどれくらいの頻度で(多くは月に1回程)、どのような方法で会うかというのが、双方の協議により(もちろん子供の意向が最重要ですが)、決められることが多いといえます。

双方の関係がある程度良好であることが、円滑な面会交流には不可欠といえると考えられます。

 

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5 婚姻費用・養育費

子供を育てるために、子供を引き取った側が相手方に養育費を請求することができます。

これは、自分と相手方の収入(相手方の収入は十分に把握しておく必要があります)や、子供の人数、年齢等を総合してどれくらいの額が相当か判断することになりますが、おおまかな算定表というものが存在するので、その算定表に沿って、養育費として相当な額が定めれられることが多いです。

なお、まだ婚姻を継続している状況であれば(親権を争っている時等には争いが長期化することがままあります)、婚姻費用を請求することもできます。

この婚姻費用は、配偶者の生活費用の分も算定することになりますので、養育費よりやや高額になります。

 

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6 財産分与

双方に婚姻後相当の財産を形成している場合には、それを等分に割ることになります。

しかし、婚姻前の財差については、固有の財産となるので分与の対象にはなりません。

また、婚姻後の財産であっても、配偶者が形成した財産をすべて把握することはなかなか困難ですから、へそくり等が隠されて、財産分与の対象にならない可能性もあります。そのため、相手方がどのような財産形成をしているのか、婚姻中にある程度把握する努力が必要でしょう。

 

7 慰謝料

離婚の原因として相手方の非が大きい場合(不貞行為をされたとき等が典型です)、離婚に際して慰謝料を相手方に請求することができます。

この請求をする際には、慰謝料請求の根拠の説明が必要になりますから、どのようなことがあったのか、詳細にメモを取っておく必要があるでしょう。

 

 

次回以降は、それぞれ問題となるテーマごとに説明させていただきます。

 

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紛争の解決手段(4)~裁判外(前)の交渉

 

弁護士の山田雄太です。

 

紛争の解決手段について、前回まで(紛争の解決手段(1)~(3))は、裁判上での解決手段について簡単に述べてきました。

今回は、裁判外(主に裁判前)の紛争解決手段について述べたいと思います。

基本的には、弁護士が代理人となり、何らかの請求をする際には、すぐに訴訟提起をするのではなく、裁判前の交渉をすることが通常です(もちろん交渉の余地がなければいきなり訴訟ですが。)。

では、裁判前に交渉をする意味合いというのはどこにあるのでしょうか。

第1に、何よりも早期の解決が期待できることが挙げられます。

訴訟というのは、やはり当事者にとっては大きな負担であることは間違いなく、請求をする側、請求をされる側ともに、訴訟を避けて、早期に解決しようとするのは、十分あり得る選択だといえるでしょう。

ただし、早期の解決には、双方の合意が成立することが前提となるため、双方の主張に大きな差がある場合には、なかなか合意を成立させることは難しいかもしれません。

双方の主張に大きな差があり、双方とも譲る気配がない場合には、裁判前の早期の解決は諦め、早めに訴え提起に踏み切ることはあり得ることだと思います。

第2に、訴訟によりさまざまな事実が公にさらされるリスクを避けることができることが挙げられます。

これは、主に請求をされる側に当てはまることだと考えられますが、訴訟により、請求をされる側に不都合な事情が色々と明らかになることが想定される場合には、訴えを提起される前に早期に解決すべきという方向に大きく傾くことになるでしょう。

もっとも、このような場合には、請求する側もかなり強気の姿勢で交渉に臨んでくることが想定されるため、とてもではないが飲めない条件を提示してくる可能性もあります。

この場合は、請求をされる側は、かなりの譲歩をすることを覚悟した上でも、裁判前の和解を試みるか、あるいは、不都合な事情が明らかになったとしてもやむなしということで、裁判での解決目指すか、難しい判断をしなければならないと思われます。

第3に、訴訟による不要な傷つけ合いを避けることできることが考えられます。

訴訟をすると、双方がとり得る全ての主張をすることが通常想定されます。

特に、親族間での紛争がこの場合にあたることが多いのですが、お互いの非難を続けるような訴訟をすると、双方が非常に傷つきます。

そのようなことは、将来的な関係修復を不可能にする可能性すらあり、このような場合には、弁護士としては、直ちに訴訟に踏み切るよりも、裁判前の交渉で穏当に解決すべきという考えに傾くことも多いと思われます。

 

このように、裁判前の交渉というのは、仮に上手くいかなかったとしても、試みる価値はあると思われます。

ただし、交渉をずるずる行い、結局和解が成立せず裁判に踏み切るということになると、交渉をしていた分だけ解決が先延ばしになるリスクがあるため、交渉での解決が難しそうであれば、どこかで見極めをして裁判に踏み切るということも重要になると思われます。

 

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紛争の解決手段(3)~判決~

 

弁護士の山田雄太です。

 

訴えが提起されて、裁判が進行していく間に、裁判所は必ず原告被告双方に「和解(話し合い)の可能性はないか?」と聞いてきます。

もちろん、その話し合いの中で、双方の合意に到れば、和解が成立しますが、話し合いが決裂し、和解成立の余地がなくなると、裁判官は判決を書くことになります。

裁判官が判決でどのような方法で判断をするかというのは、必ずしも唯一の考え方があるわけではなく、また、事案によっても判断の仕方は異なるところですが、裁判官は、「動かしがたい事実」を認定したうえで、その事実を前提として、全体としての事実認定をするようです。

では、「動かしがたい事実」に基づく事実認定とはどのようなものでしょうか。

基本的には、裁判官は、信用できる物的証拠(俗にいう紙による証拠)を基に、人的証拠(証人尋問)で出てきた事情を補充して事実認定をしているように思われます。

やはり、裁判官の事実認定の話をするにあたっては、証拠の議論を避けては通れないので、

具体例について、「証拠」とは(1)

「証拠」とは(1)~弁護士の視点から~

で扱った貸金返還請求訴訟において、AさんがBさんに300万円を貸したことを立証する証拠がいくつかあった場合、裁判官がどのように「動かしがたい事実」を認定するかを検討したいと思います。

Aさんが、Bさんの署名押印(偽造でなく真正なものとします)がある「借用書」(私はAさんに〇年〇月〇日に300万円をお借りしました。一年後である〇年〇月〇日には必ずお返しいたします。)を証拠として提出した場合、裁判官が認定する「動かしがたい事実」はどうなるでしょうか。

おそらく、「Bさんは、自分の意思で、『Aさんから300万円を借りており、必ず返す』との文言の入った借用書に自らの署名押印をした。」との事実が「動かしがたい事実」になると思います。

そして、Bさんが、なぜ自分の意思で300万円の借用書に署名押印をしたのかといえば、それは、まさに「BさんがAさんから300万円を借りた」からであろうと裁判所は判断することになるでしょう。

そうすると、裁判所は、「Bさんは、自分の意思で、『Aさんから300万円を借りており、必ず返す』との文言の入った借用書に自らの署名押印をした。」との「動かしがたい事実」の認定によって、「BさんがAさんから300万円を借りた」と強く推認することになります。

そのため、借用書の証拠は裁判所にとってはかなり大きな事実認定の基礎になると思われます。

 

AさんからBさんへの300万円の口座振込の証拠(通帳の写し)が出てきたらどうでしょか。

「AさんがBさんに口座振込により300万円を支払った。」という事実が「動かしがたい事実」になるでしょうか。

この場合は、裁判所は、なぜAさんはBさんに300万円を支払ったのか、と考えます。

300万円を支払った理由というのは一般的には色々とあり得るところですが(商品の代金、借りたお金の返済等)、貸したという以外の事情が出てこないのであれば、裁判所は、AさんからBさんへの300万円のお金の動きは、AさんがBさんへお金を貸した際のものなのではないかと考えると思われます。

この場合、Bさんとしては、Aさんからの300万円のお金の動き自体は否定し難いですから、「借りた」以外の理由で300万円のお金の動きがあった(商品の代金だった等)と説明しなければならないでしょう。

このBさんの説明がうまくいかなければ、裁判所はAさんがBさんにお金を貸したのだろうという方向に考えると思われます。

以上のような例は、わかりやすい「動かしがたい事実」の認定の例ですが、事案が複雑であれば裁判所は、背景事情も含めて「動かしがたい事実」を複数認定したうえで、最終的な結論を出すことになります。

そのため、使える客観証拠は多ければ多いほど、裁判所はより確実に主張する事実の認定をしてくれることになるでしょう。

重複になってしまいましたが、やはり、物的(紙の)証拠は重要だということになります。

もちろん、上記の話は人証(証人尋問)の重要性を否定するものではありません。人証は事実認定にあたっては、やはり大きく関わるものであるのは間違いないでしょう(証人尋問については別途検討します)。

雑駁になってしまいましたが、裁判所の事実認定における考え方を簡単に紹介させていただきました。次回は、裁判前(外)の交渉について検討したいと思います。

 

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その②

紛争の解決手段(2)~裁判上の和解~

その③

紛争の解決手段(4)~裁判外(前)の交渉

 

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紛争の解決手段(2)~裁判上の和解~

 

弁護士の山田雄太です。

 

前回(紛争解決の手段(1))の続きです。

今回は、裁判上の和解について、少し踏み込んで検討したいと思います。

結果的に、裁判上の和解をすることになるとしても、判決をもらうことを前提とした主張立証を尽くすという点については変わりません。弁護士としては、和解で得られる数字が少しでもよくなるよう、主張立証に全力を尽くすことになります。

ただし、進行している訴訟のどの段階で和解をするかによって、双方の合意に基づき柔軟な解決をするのか、判決に近い内容で解決をするのかが変わることがあります。

 

裁判上の和解は、裁判の進行に応じて、大きく二つに分かれます。

それは、「証人尋問前」の和解と、「証人尋問後」の和解です(証人尋問には本人尋問も含むものとします。また、証人尋問については後日検討します。)。

証人尋問前であれば、裁判官は明確に心証(裁判官が考える事件の方向性)を形成しない段階での和解となるため、原告被告双方が求める数字を示して、双方譲歩しつつ妥協点を探すということになります。

ただし、この段階だと、双方の要求する数字に隔たりが大きいことが多く、なかなか妥協点を見つけるのが難しい場合が多い一方で、双方の合意に基づき柔軟な解決ができることもあります。

一方で、証人尋問後であれば、裁判所はかなり明確に心証を形成していますから、むしろ、裁判官が和解案を提示します。この和解案は、実質的にはほぼ判決に近い内容になっています。

この段階に到ると、判決の内容がほぼ想定されるので、双方裁判所の提案を受け入れる可能性が高くなります。

では、事案によって、「どの段階で和解をするべきか」というのが変わることもあるのでしょうか。

以下に、①明確に勝ち筋が見えているとき、②見通しがなかなか立たないとき、③勝ち目が薄いと思われるとき、に分けて検討したいと思います。

①手元にある証拠等との関係で、明確に勝ち筋が見えているときは、基本的には、取り得る選択肢が広くなると思われます。

当然、仮に判決になっても勝訴が見込めるわけですから、証人尋問前の和解を試みる段階でも、強気の提案をすることになります。そこで、相手がこちらの提案に近い形で受け入れてくれるのであれば、それでもかまわないということになるでしょう。

もちろん、相手の主張と隔たりがあることもまま考えられますが、その場合には、証人尋問をしてもらって、「裁判所に和解案を出してもらうということでもかまわない」と考えることになります。

その場合であっても、裁判所は判決に近い内容で和解案を提示しますから、裁判所の提案を相手が渋々受け入れて、無事に解決ということが十分に考えられると思われます。

②なかなか訴訟の見通しが立たないときは難しい判断となります。もしかしたら、こちらが敗訴判決をもらう可能性が否定できないことを頭に入れて行動する必要があります。

もし、証人尋問前の和解の話し合いの中で、相手側からある程度の数字の提案が示されたときは、内容に多少の不満があっても乗ることも十分に考えられます。

あえて、そこでリスクを負って、証人尋問をして、その後に出てきた裁判所の提案が想定以上にこちらに不利なものであった時、難しい判断を強いられることになってしまいます。

もちろん、証人尋問前の相手方の提案が納得できない場合には、やはり、証人尋問まで突き進まざるを得ないこともままありますが、その時にはリスクも伴うことを十分に理解して進むことになると思います。

③明確に勝ち目が薄いと思われるときは、はっきり証人尋問前に和解をするべきです。

このままだと敗訴判決を免れられないということが事前に想定されるとき、証人尋問まで突き進んだらどうなるでしょうか。

裁判官は、明確にこちら側が負け筋であることを前提として、ほぼ敗訴判決そのままの和解案を提案してくることが十分に想定されます。

そうなることが想定されるのであれば、傷口が浅い証人尋問前(裁判所が心証を形成する前)に、なんとか和解をまとめるという方向で全力を尽くすべきでしょう。

このように、想定される見通しによって、どの段階で和解をまとめるよう努力するか、ということは変わってくることがあり得ます。

もちろん、依頼者の方にとって証人尋問というのは本当に大きな負担ですから、それを避けて、証人尋問前にまとめるというのも一つの選択でしょう。

ケースによって取り得る対応は異なるところですが、やはり、見通しによって対応をよく検討するというのは、非常に重要になるといえるでしょう。

 

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その①

紛争の解決手段(1)~裁判上の和解、判決~

その②

紛争の解決手段(3)~判決~

その③

紛争の解決手段(4)~裁判外(前)の交渉

山田法律事務所  弁護士  山田 雄太

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紛争の解決手段(1)~裁判上の和解、判決~

 

弁護士の山田雄太です。

 

紛争の解決手段として、どのようなものをイメージされるでしょうか。

訴訟係属後では、大きく分けると、裁判上の和解、判決等があり得るところですが、弁護士の間では、判決ではなく、裁判上の和解で解決するのが望ましいという意見が多く聞かれます。

確かに、勝てる見込みが薄い事件では、敗訴判決(原告であれば請求棄却、被告であれば請求認容)をもらうよりも、和解に持ち込んで、判決に比べればましな結果を得ようとするべき、というのは争いがないでしょう。

しかし、明確に勝ち筋が見えている事件ではどうでしょうか。

判決をもらえば、全面勝訴になる可能性が高い(例えば、500万円の請求で500万円が認容される可能性が高い)にもかかわらず、あえて和解で250万円で解決する意味合いはどこにあるのでしょう。

確かに、勝ち筋の事件では、和解よりも判決のほうが良い内容になる可能性は高いです。

でも、敗訴判決をもらった側がおとなしく500万円を払ってくれる保障はありません。敗訴判決をもらった側が、さらに抵抗してくる可能性も十分にあるのです。

第一に、控訴(上級審に判断を求めること。地方裁判所→高等裁判所等)をされる可能性があります。控訴になると、さらに裁判が続くので、金銭的にも、時間的にも、依頼者の方にとっては大きな負担になります。

第二に、「被告は原告に500万円を支払え」との判決を、被告が無視する可能性があります。判決というのは、もらったら完全に解決というものではなく、その判決を踏まえて、任意に被告が500万円を払ってくれて、初めて解決になるのです。

そのため、敗訴判決を受けた被告が判決を無視した場合、原告としては、お金を回収するためにさらに対処が必要となります。

それが「民事執行」という手段です。

(※正確には、裁判を起こす前に「民事保全」という手段により相手の財産を確保することもできるのですが、この手段については、後日扱わせていただきます。)

民事執行というのは、相手にどのような財産があるかを「把握している」こと前提に、相手の財産を強制的に処分して金銭的に回収するという手段です。

不動産や動産であれば競売にかけたり、預金債権であれば、そのままその預金を引き出して回収できたりします。

でも、あくまでも、執行をするためには、相手の財産を「把握している」ことが大前提になるわけです。

相手がどこにどのような財産(特に預金等)を持っているかなんてことを日常的に知ることはできるでしょうか。なかなか難しいところです。

もちろん、弁護士会による照会(23条照会。これも後日扱います。)等によって、相手の財産を特定することができないわけではないですが、敗訴判決をもらうことが濃厚な相手が、執行をかけられるということを分かっていれば、預金を引き出したりして財産を隠そうとするでしょう。

そうなってしまうと、なかなかお金を回収することは難しくなります。

せっかく500万円の勝訴判決を得られたにもかかわらず、全然お金を回収することができない、なんてこともありうることなのです。

以上のようなことを考えると、裁判上の和解のほうが、むしろ、より良い解決が得られるということもままあるのです。

まず、裁判上の和解を選択すれば、早期に解決が期待できます。時間も有限ですから、早く紛争を終わらせて、将来に向かって進んでいくというのも、重要な選択の一つです。

そして、何よりも、和解というのは「互譲」(互いに譲ること)を前提とするものですから、任意の支払いが強く期待できます。もし相手を信用できなければ、席上交付(和解が成立する時に、お金を持参してきてもらう)という手段もあります。

もし、250万円の支払を早期に受けられるのであれば、むしろ、そちらの方がより良い解決だったということも十分あり得るのです。

 

もちろん、相手が頑なに和解を拒絶してきた場合には、最後まで闘う以外に手段はありません。判決までもらい、さらに、民事執行まで行きつくことになるでしょう。また、和解が可能であったとしても、場合によっては、判決を貰うべき事案もあり得ます。

でも、和解が可能なのであれば、極力和解で終わらせるべきと考えられる事案がやはり多いように思われます。

以上のように、和解というのは、判決に比べれば、かなり譲る部分もあり、心理的に抵抗を感じるところもありますが、長い目で見れば、良い結果に終わる可能性が高いということをご理解いただければ幸いです。

 

※ あわせて読みたい記事

その①

紛争の解決手段(2)~裁判上の和解~

その②

紛争の解決手段(3)~判決~

その③

紛争の解決手段(4)~裁判外(前)の交渉

 

山田法律事務所  弁護士  山田 雄太

東京都新宿区新宿1-6-5シガラキビル5階

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「証拠」とは(3)~弁護士の視点から~

 

弁護士の山田雄太です。

 

前回(「証拠」とは(2))の続きです。

前回の仮想事例を要約すると以下の通りでした。

Bさんは、Aさんから300万円を1年の期限で借りたところ、借りてから2年後に、Aさんから貸金返還請求訴訟を提起されました。

Bさんから相談を受けた弁護士が話を行くと、Bさんは以下のような説明をしました。

「①300万円のうち200万円は期限内にすでに弁済した。②残りの100万円は、Aさんが私の窮状を見かねて免除してくれた。」

①の弁済の立証は前回検討しましたので、今回は、②の免除の立証を検討することにします。

さて、免除(民法519条)というのはどういう場面にあり得るのでしょうか。

債権者(今回でいえばお金を貸しているAさん)にとって、免除というのは、実質的に自分の債権を放棄する(100万円を捨てる)のと同じですから、心理的には容易にできることではありません。

裁判所も、「人が、理由なく自己の債権を放棄する(免除をする)ことは考えにくい」と基本的には考えていると思われます。

そうすると、裁判において、Aさんが「免除なんかしていない。」と言っているとき、免除を主張するBさんとしては、「紙(メール、FAX等含む)はないが、口頭で免除をしてもらったんだ。」と言ったとしても、なかなか裁判所を説得することは難しいと思われます。

もちろん、紙がなかったとしても、Aさんが「免除してあげるよ。」と言ったことを聞いていた人が周りにいれば、証言をお願いできる余地がないわけではありません。ただ、そのAさんの発言を聞いていた人がAさんに近い立場の人であれば、協力を得るのは難しいでしょう。

また、紙も、第三者の証言も難しい場合であっても、Bさんのその時の窮状を具体的に説明したり、従前のAさんとBさんの人間関係を説明したりすることで、Aさんが免除をする動機があったんだという攻め方もあり得るかもしれません。でも、裁判所の説得には、かなりの事実の積み重ねが必要と思われます。

そうすると、免除を証する紙(メール、FAX等含む)での立証がやはり重要な要素を占めることになります。

しかし、人が自己の債権を放棄する(免除をする)際、多くの場合、口頭で言うことが多く、紙等に書いてわざわざ相手に渡したりすることはあまりないでしょう。

場合によっては、お酒の席で言われるかもしれません。そのような時に、あえて、「じゃあ、紙に書いていただけますか?」などと言うこともなかなか難しいですし、そのようなことを言ったら、怒りを買って、やっぱりやめるなどと言われるかもしれません。

免除というのは債務者にとっては本当にありがたいことですが、証拠の作り方もなかなか難しいところです。

正解は簡単には思いつかないところですが、後日、免除していただいたことに感謝の意を伝えるメールを送り、返信をもらう等、工夫が必要と思われます。

将来のことを考えて、証拠を残しておくということは非常に重要ですが、証拠の内容によっては、どのように残すかについて、慎重に考える必要もあるでしょう。

 

※ あわせて読みたい記事

その①

「証拠」とは(1)~弁護士の視点から~

その②

「証拠」とは(2)~弁護士の視点から~

 

山田法律事務所  弁護士  山田 雄太

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「証拠」とは(2)~弁護士の視点から~

 

弁護士の山田雄太です。

 

前回の「証拠」とは(1)の続きです。

前回の仮想事例ではAさんからの視点での立証を考えてみました。今回は、Bさん側のストーリーから考えてみたいと思います。

Bさんは会社経営者ですが、不況により取引先への支払いに窮していました。そんな中で、貸金業を営んでいるAさんに、1年間の期限で300万円を借りました(利息の議論は割愛します)。BさんがAさんに300万円を借りてから2年後、AさんがBさんに対して300万円の貸金返還請求訴訟を提起してきました。

Bさんが弁護士に相談に行った際、Bさんは、以下のような説明をしました。

「①300万円のうち、200万円については、期限内に弁済している。②残りの100万円については、Aさんが私の窮状を見かねて免除してくれた。」

Bさんから相談を受けた弁護士としては、①、②それぞれについて立証が可能かどうか検討するため、Bさんにどのような証拠があることを聞いていくことになります。

①の弁済についての証拠としてはどのようなものが考えられるでしょうか。

まず、BさんがAさんから200万円の「領収証」を受け取っていて、これを裁判所に証拠として提出するということが考えられます。

しかし、Bさんが裁判において提出した領収証に、Aさんの署名押印等が一切なく、Aさんが、「200万円の弁済はない。Bさんが証拠として提出した領収証は私が作ったものではなく、偽造だ。」と言ってきたらどうでしょうか。

残念ながら、Bさんが提出した「領収証」にAさんの署名押印があった場合に比べて、裁判官の心証(裁判官が考える事件の方向性)に与える影響は小さいと言わざるを得ません。裁判官は、色々な可能性を考えるので、Aさんの署名のない「領収証」は、Aさんの関与なくともBさん一人で作れてしまう(Bさんが一人で作った可能性を排除できない)と思ってしまうのです。

その意味では、BさんがAさんから領収証をもらう際には、Aさんの署名押印を絶対にもらわなければなりません。

さらに言うと、Aさんに目の前で署名、押印をしてもらうのがベストです。もし、目の前で署名をしてくれず(かつ、押印はそもそもしてくれず)、Aさんが別の人に自分の名前を書かせた領収証をBさんに渡したうえ、裁判でこの署名は私のものではないと言った時に(筆跡鑑定の結果Aさんの署名ではないと判明したとします)、やはり、裁判所はこの領収証はAさんが作ったものではない可能性があると判断してしまうリスクが十分にあるからです(Aさんが本当にこんなことをするかどうかはあまり考えないでください…仮想事例なので笑)。

以上のように、「証拠」としての意味合いを考えると、領収証をどのようにもらうかも非常に重要になるといえます。

また、そもそも領収証が存在しないため(貰っていないorなくしてしまった)、証拠として提出できないときは、前回(「証拠」とは(1))と同じように、Bさんが、口座振込により支払っているか、現金で支払っているか(その際に口座から引き出して払っているか、お金の動きを示せないか)等により、立証の手段や困難さが変わるといえます。

 

本当は、②もこの回に書こうと思ったのですが…長くなってしまったので、②の免除の立証方法については、次回に検討させていただきたいと思います。

 

※ あわせて読みたい記事

その①

「証拠」とは(1)~弁護士の視点から~

その②

「証拠」とは(3)~弁護士の視点から~

 

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